子育て中の在宅ワーク。集中できる環境づくりの工夫

コラム

在宅ワークという働き方は、コロナ禍をきっかけに一気に広がりました。時間や場所の自由度が高く、通勤の負担が減る一方で、子育て世帯にとっては新たな悩みも生まれました。仕事中に子どもが話しかけてきたり、泣いたり、家事が目に入って気が散ったり。仕事と育児が「同じ空間の中で同時進行する」ことで、集中力を保つのが難しいという声をよく聞きます。

以前の日本社会では、地域や大家族の中で子育てが行われていました。祖父母や近所の人たちが自然に子どもの面倒を見てくれる環境がありました。しかし現代は核家族が主流で、シングルマザーやシングルファザーの家庭も増えています。さらに言えば、核家族すらも個人単位に分解され、孤立した育児が当たり前になりつつあります。そんな中で、育児と家事と仕事を一人、あるいは夫婦だけで回すのは、相当なエネルギーが必要です。

では、どうすれば限られた時間と空間の中で集中力を保てるのでしょうか。ポイントは「環境設計」と「意識の切り替え」です。

まず物理的な環境。リビングの片隅でも、自分の「仕事スペース」を確保することが大切です。わずか1〜2畳でも構いません。「ここに座ったら仕事モードになる」という条件づけを自分の脳に覚えさせるのです。机の上には最低限のものだけを置き、視界に余計な情報を入れない。子どものおもちゃや家事関連のものが視界にあると、それだけで脳が「家庭モード」に引き戻されてしまいます。

もう一つは「時間の区切り」です。集中できる時間帯は人によって違いますが、一般的に朝は脳が最も冴えている時間帯です。子どもが起きる前の1時間を“ゴールデンタイム”に設定する人も多いです。その時間帯に集中を要するタスクを済ませ、子どもが活動している時間帯には「軽作業」「連絡業務」などを割り当てるようにしましょう。
また、「子どもが昼寝している間」や「食後30分だけ」といった小さな時間の積み重ねでも、1日の生産性は大きく変わります。タイマーを使って「この25分は絶対に集中する」と区切るポモドーロ・テクニックも有効です。

それでも、子どもは親の集中を察して話しかけてきます。これは「自分を見てほしい」という自然な欲求です。そのたびに「あとでね」と言い続けると、子どもは不満をためていきます。そこでおすすめなのが、「事前予告」と「短い共有時間」です。
「この仕事が終わったら5分だけ一緒にお絵かきしよう」
「10分経ったらおやつタイムにしよう」
といった予告をすることで、子どもは安心して待てるようになります。そして約束を守ることで、子どもは「親の言葉は信じられる」と感じます。結果的に、親の仕事中の集中を邪魔しにくくなります。

また、在宅ワークでは「孤独」も見逃せません。オフィスのように雑談や相談の機会が少なく、気づけば孤立感が増していくことがあります。子育てと仕事を両立するためには、同僚や上司とのオンラインでの小まめな連絡、同じ立場の親同士のコミュニティへの参加も有効です。「頑張っているのは自分だけじゃない」と感じられるだけで、心の負担は軽くなります。

集中できる環境とは、ただ静かな場所を指すのではありません。心理的に安心できる空間であることも重要です。
たとえば、好きな香りを焚く、照明を少し暖色系にする、BGMを流す。そんな小さな工夫でも、集中力は驚くほど変わります。五感を使って「ここは仕事モード」と感じられる環境づくりを意識しましょう。

子どもの年齢によっても、集中環境の作り方は変わります。乳幼児期は親が目を離せないので、完璧な集中はほぼ不可能です。その場合は、「短時間集中+合間タスク」でやりくりするのが現実的です。一方、小学生以上になると、自分の時間を持てるようになります。そうなれば、親子それぞれの“集中タイム”を決めて同じ時間に作業するのも効果的です。親が集中している姿を見せることは、子どもにとって良い学びにもなります。

そして何より大切なのは、「集中できない日があってもいい」と認めることです。育児も仕事も日々変化します。今日は思うように進まなかった、子どもが熱を出した、家事が山積みになった、そんな日もあるでしょう。でもそれは失敗ではありません。家庭という“生きた環境”の中で働いている証です。
在宅ワークとは、効率だけを追う働き方ではなく、「生活と仕事をどう調和させるか」を模索する新しいスタイルなのです。

仕事と育児、どちらも大切。だからこそ、完璧を目指さず、バランスを取る。
そんな柔らかな発想で環境を整えることが、最も“集中できる在宅ワーク”につながるのかもしれません。